**2001年1月**
<<<T88(パラオ、exKC6)>>>
T88DX  ひとり旅日記    JI3DLI/藤原健志

 みなさんとは随分ご無沙汰しておりますが、いかがお過ごしでしょうか? 私は昨年2月末頃にクルマに当たりに行って
(決して当たり屋ではないのですが…)右下腿骨折で入院したり、その後退院してから今度は体調を崩して入院するなど、
数年早く厄年が訪れたのかと思うほど色々ありまして、精神的にも少々滅入ってしまい無線やパソコンからも手に着かない
状態でした。
 ようやく体調も復調した昨年9月初め頃、無性に無線がしたくなって今年のお正月のパラオからの運用計画を始めました。

■ 出発まで
 パラオへの渡航の方法はグァム経由が一般的ですが、数年前より関西空港や名古屋空港からJALチャーター直行便が
頻繁に飛ぶようになり、関西からは大変手軽に渡航することができるようになりました。もちろん私もこの直行便を利用した
のは言うまでもなく、9月上旬いつもお世話になっているビックファイブの伊藤さん(T88FW)にコンタクトを取りました。
日程はフライトスケジュールに合わせて1月1日出発〜6日帰国です。伊藤さんは直行便の座席を何席かブロックされて
いますからすぐに「OK!」の回答が得られ、いとも簡単にパラオ行きにGOサインが出ました。宿泊するのは一昨年7月に
JH3FJG早越さんと運用した、VIPゲストホテルです。オーナーのジョージさんはT88GNのコールサインを持つアマチュアで、
自らの無線室を宿泊者に開放して下さっています。今回は私もジョージさんの無線室をお借りして運用することに決め、
ジョージさん宛に無線室をお借りしたい旨を書いた手紙を出しました。
 9月下旬頃、会社の昼休みに何気なしにホームページを巡っていると、年末年始にパラオから運用される計画をお持ちの
方がいらっしゃることが判りました。IOTAサービスにアクティブな、JK1FNN(T88HA)/7L1MKM(T88MY)山崎さん
ご夫妻でした。早速メールで問い合わせたところ、12月29日〜1月3日の間にホテルニッコウパラオから運用されるとの
こと。距離的にも2キロ以上離れているので、オンフレで運用しない限り問題ない模様です。

■ いざ出発!
 パラオへの出発は1月1日、つまり元旦です。フライトは20時35分ですから、昼の間に上賀茂神社での初詣を済ませ、
旅の安全をお願いしてきました。
 16時46分、関空特急はるか45号は定刻通りJR京都駅のホームを離れ、一路関西空港へ向かいます。乗車率は
6割くらいでしょうか、さすがに元旦に旅行に出かける人は少ないようです。18時過ぎに関西空港に着いた私は、早速
チェックインして搭乗時間を待ちましたが、やはり空港ロビーも閑散としたもので、コーヒーショップの店員も暇を持て余して
いるようでした。
 20時23分、JAL3469便の搭乗手続きが始まりました。今日の機体はボーイング767型機なのですが、私の持っている
搭乗券の座席は57E。つまり2×3×2列の真ん中です。ちょっと窮屈な4時間となりそうです。
 今日は元旦ということもあり、機内では“おとそ”のサービスがありました。そしていつもの通り飲み物のサービスが終わり
かけた頃、機体の揺れが始まりました。折から近畿地方の南側には前線が停滞していて3469便はここを通過したのですが、
それはそれはよく揺れました。それまでにサービスされていたワインがグラスから飛び出るのではないかと思うくらいの揺れ
でした。何れにしてもあまり気持ちの良いものではありません。前線を通過する20分ほどの間、知らず知らずに全身に力が
入っていました。
 その後3469便はグァム島近辺の台風を避けるため、東に大きく迂回しヤップ島上空を通過してパラオに向かいました。

■ またやってきました
 日付の変わった1月2日。眠い身体にも機体が降下しているのを感じられるようになりました。そして1時20分、パラオ
国際空港の滑走路にB767の車輪がタッチダウンしました。少々ハードランディングでしたが…。これで私にとって4度目の
パラオです。
 パラオの空港ターミナルが新しくなっていました。入国審査デスクにはパソコンのディスプレイも並んでいましたが、まだ
稼働前なのか電源も入っていません。のんびりした審査風景は以前と何等変わりがありませんでした。荷物をピックアップし、
税関を通過した頃には時計の針は2時を指していました。VIPゲストホテルのBONさんが私の名前を書いたボードを持って
待っていてくれましたから、迷うことなくホテルに向かうことができました。
 2時25分、ホテルに到着しました。部屋はシングルの301号室です。荷物もほどかずにベッドに潜り込みますが、エアコン
の音が「ガラガラ…」と耳障りでなかなか寝付くことができません。いや、これからの4日間のことが頭の中を巡って目がさえて
しまったのが正直なところです。ようやく眠りについたのは、4時前だったと思います。

 6時45分、早くも目が覚め荷物をほどきにかかりました。そして本来ならば早速無線機の前に座りたいところなのですが、
ここはグッと我慢して朝食と買い物に出かけることにしました。朝食はホテル前に新しくできた、インターネットカフェです。
ここパラオでもパソコンと携帯電話が流行のようです。このカフェでは30分間3ドルでインターネットを使用することができ
ますが、通信回線が細いようで時間帯によってはメールを4〜5通読むだけで30分が過ぎてしまうことがありました。
これじゃぁ、パケット通信の方が早いくらいです。しかしながらパラオに居ながらにしてメールチェックできるのは、一人旅の
身としては心強いものです。

■ 運用開始!
 朝食後WCTCマーケットで飲み物や食べ物を買い込んで、いよいよ運用開始です。9時15分、21MHzSSBでCQを出すと、
JAからすぐに応答がありました。そして4局目のK8YSEとのQSO

を終えると、ヤッター!! Wからのパイルのはじまりはじまり。さすがにキロワットの威力はスゴイです。この後JAとWが入り
交じったパイルを心地よくさばき、2時間足らずで250QSOをログインしました。ウォーミングアップとしては上出来です。
 上々の滑り出しに気を良くしながら、郵便局から絵ハガキを出そうとホテルの玄関を出たところで、偶然にもオーナーの
ジョージさんとお会いしました。最近は新しく建築中のホテルの準備がお忙しいそうで、この時もその現場から帰ってこられた
ところでした。立ち話でしたから無線室をお借りしているお礼だけ言って、また改めてお話しさせてもらおうとお別れしたのですが、
その夜ジョージさんはお子さん達のいるハワイに発たれました。もっとしっかりとお礼を言っておくべきでした。
 郵便局を後にしてブラブラとコロールの街中を散歩してまわりましたが、いたる所で何らかの工事をしています。メインストリート
には、イタリアンレストラン「カプリチョーザ」までできています。また以前よりもクルマの数が増えたようで、ノロノロ運転が続いて
います。確実にパラオにも都市化の波が押し寄せているようです。
 隣の島、アラカベサン島近くまで行ってホテル近くまで帰ってくると、私の後ろからタクシーがけたたましくクラクションを鳴らして
きます。運転席に向かって「ノーサンキュー!」と言おうとしたら、いきなり目の前に回り込んできて一瞬拉致でもされるのかと身を
固くしました。しかし後部座席から「ふじわらさーん」と私を呼ぶ声が。なんとT88HA/T88MY山崎さんご夫妻でした。何でも
私のホームページで顔写真をご覧になっていたようで、車窓から一目で分かったようです(多分分かりやすい顔なのでしょう!)。
ちょうどお昼時でしたからランチに誘っていただき、日本レストラン「利休」で突然アイボールとなったのでした。でも汗だくの
Tシャツ姿でしたから、ちょっと恥ずかしかったです Hi。
 山崎さんご夫妻とのランチを終えホテルに戻った私は、すぐに無線室で運用を再開しました。21MHzと18MHzを行ったり
来たり。ヨーロッパの指定無視にイライラしながらも時々ビールでノドを潤しながら、19時までの間に550QSOをログイン
しました。初日の運用で800QSOを数えました。

■ 6mオープン! 
 1月3日。この日は6時前に目が覚め、日本から持参したインスタントみそ汁にお餅を浮かべて、しばしお正月気分を味わい
ました。朝食後は21MHzでWの非常に心地よいパイルアップを楽しみました。

 10時を過ぎた頃、またまたお散歩。この日は山崎さんご夫妻が宿泊されているホテルニッコウパラオに向かいました。しかし
この炎天下に散歩しているのは私ぐらい。途中あまりにも暑いので帽子と着替えのポロシャツを買い物しながらのお散歩でした。
ニッコウパラオには以前タクシーで行ったことがあったので道も覚えているはずだったのですが、油断は禁物。しっかり途中道に
迷ってしまい、気付いたときには知らない村の奥深くまで入り込んでいました。結局道に迷ったおかげで、40分ほど時間をロス
してしまいました。
 ニッコウパラオでは、パラオ独特の果物シャシャップのジュースでしばし休憩。その後はタクシーを呼んでK−Bブリッジに向かい
ました。K−Bブリッジは首都のあるコロール島と空港のあるバベルダオブ島を結ぶ橋ですが、96年5月にコンクリート橋が落橋し、
現在日本のゼネコンの手により新しい吊り橋の建設工事が急ピッチで行われています。今年の11〜12月の完成を目指して
いるということでした。

 お散歩から帰り21MHzにQRV。1時間半ほど運用して休憩しようと立ち上がりましたが、虫の知らせか何となく気になって50.110MHzでCQを出すと、ノイズに埋もれながらも微かに応答が。ついに念願の50MHzでJAがオープンしました
(16時04分)。現地では昼間のノイズレベルが高く、また信号が弱いのでなかなかピックアップできなかったのですが、時間を
追うにつれて信号が強力になってきました。中でもJA7WSZの信号は異常と思えるほどの強さで、設備の優秀さをうかがわせ
ます。約1時間半ほどのオープンでしたが、8〜1エリアの東日本を中心に延べ83局をログインしました。
 後日談ですが、ブルガリアの局から次のような電子メールが届いていました。

Hr is Mike LZ2DF, Today is 03.01.2001. at.08.00 GMT I heard T88DX on 50.115 Khz.CW.
と言うわけで、T88DXの信号は北極圏を飛び越えてヨーロッパまで届いていたようです。

■ パラオ3日目
 1月4日。この日もまた朝からウォーキングに出かけました。目的地はマラカル島の先端にあるPMDC(パラオ水産試験場)。
ホテルからは1時間半ほどかかりましたが、海がエメラルドグリーンやマリンブルーに輝き、とても綺麗なところです。ここでは
有名なシャコ貝の養殖を行っていて、日本の水産庁も技術協力をしています。初めてパラオに来たときにお会いした遠藤先生(T88ME)もこの試験場でお仕事されていたようです。ここでイタリアから旅行に来ていた老夫婦に出会いましたが、気さくに
「コンニチワ!」と声をかけてもらい、お互いカタコトの英語ながら話しをする機会がありました。こんなコミュニケーションも旅の
楽しみでもあります。
 PMDCからホテルまで歩いて帰ろうかとも思いましたが、さすがに日射病寸前になってしまったので、途中でタクシーのお世話に
なりました。ちなみにマラカル島からコロールの街中までの運賃は2ドルです。ホテルに帰る前にロックアイランドカフェで
ボリュームのあるハンバーガー(5ドル)で空腹を満たしました。ここのハンバーガーは肉厚のビーフパティに野菜がたっぷり。
また付け合わせのフライドポテトが山のようです。日本で言えばマクドナルドのバリューセットですが、ボリュームは比べ物に
ならないくらいのものです。パラオに来るたびに、このカフェに来るのが楽しみです。


 お昼前にはホテルに戻り、再び21MHzにQRVしました。しかし昼間のハイバンドはノイズが多く、またこの時間帯は
コンディションもパッとしないので、ボチボチとラグチューを楽しんでいました。夕方になり28MHzに上がってみると、途端に
ヨーロッパからパイルを浴びることになりました。こちらの信号はかなり強力に届いているようですが、肝心のヨーロッパからの
電波がS3〜5のノイズに見え隠れする信号ばかりなので苦労しました。しかしヨーロッパから見れば、西太平洋のパラオは
“珍”局のようですね。呼んでくる信号に勢いを感じました。これは北米東海岸の局も同じようで、帰国後私の手元に届いて
いるSASEに東海岸からの物が目立つのもその現れでしょう。
 さすがに3時間あまりヨーロッパの相手をしていると疲れてしまいました。19時には無線機のスイッチを切り、夕食を摂った
後早い目に寝てしまいました。パラオに滞在した4日間はとても規則正しい生活で、毎夜23時にはベッドに入り、朝6時に
起床するという毎日でした。あの「ガラガラ…」と耳障りなエアコンの音も気にならなくなってしまったのですから、我ながら環境へ
の適応性があるものだと感心してしまいます。 【この時点でのQSO数 2500超!】

■ パラオ最後の日
 1月5日、いよいよパラオ最後の日となってしまいました。いつもの通り朝6時に起きて、今朝は10MHzCWからのスタート
です。今回7/10MHzはベアフットで運用しましたが、アンテナの地上高のせいか非常に良く飛んでくれました。しかしこの
時間帯の10MHzって面白いパスがありますね。JAとヨーロッパ、そして北米が一緒になって呼んできました。今までに経験
したことのない、面白いパイルアップでした。

 この日のウォーキングは高級リゾートホテル「パラオパシフィックリゾート」のあるアラカベサン島へ。コロール島とアラカベサン島を
結ぶ500m長の連絡橋を渡り、先ずは大統領官邸へ。パラオの大統領は昨年まで日系のナカムラ氏でしたが、昨年の大統領選挙で
交代されました。私がパラオに着いた前日の1月1日には、新しい大統領の就任パーティーなども催されていたようです。
 大統領官邸の近くには国立病院やPNCCと呼ばれる国営の電話会社があります。最近パラオでも携帯電話が開設され、街中でも
使っている人をよく見かけます。ただ携帯電話片手にハンドルを握るタクシー運転手なども多く(どこの国も同じですね)、これは
やめてもらいたいいものです。ちなみに携帯電話の基地局は、93年のYAQペディ隊が運用したニューコロールホテル設置されて
いるようで、ホテルの屋上には高さ20mを超えるタワーがそびえ立っています。PNCCに隣接して、東京FMと日本航空が協力して
開設されたFM局(エコパラダイスFM)や、中波放送局(コールサインT8AA)の局舎もあります。
 アラカベサン島は島全体が小高い山を形成しており、その山の中腹には景色のいいホテルも散在します。前回パラオに来たとき、
ホテルのオーナージョージさんが朝食をご馳走してくださったホテルサンライズビラもコロール島を見渡せるポイントにあり、今回もそのホテルに向かって照りつける陽射しの中を歩いて行きました。
 VIPゲストホテルに戻ってからは、真っ先にお世話になった無線室の掃除を始めました。この無線室には複数の日本人グループが
持ち込んだ無線機材が山積み状態で、また部屋の中もゴミや雑誌を散らかしたままの使いっぱなしの状態。どこかの大学のクラブ
ボックスみたいです。元々は「世界中の無線家が手ぶらできても無線が楽しめるように…」とジョージさんが開放された部屋なのに
(と、聞いています)、これでは日本人が独占しているような感も否めません。オーナーのジョージさんがいらっしゃらないのであまり
勝手なこともできませんでしたが、「来たときよりも美しく!」の精神で部屋の中の整理をしました。

 夕方、パラオ最後の運用は21MHzSSBでした。JAとヨーロッパが入り交じるパイルを楽しみ、19時前に全ての運用を終了
しました。この頃になって、パラオへ来てから初めての雨が降ってきました。



■ 日本へ!
 日本への帰国便JAL3460便は、1月6日朝3時30分の出発。にも関わらず、ホテルのBONさんが部屋に迎えに来てくれた
のは、日付も変わっていない23時30分でした。「ちょっと早いんちゃうん?」って思いながらもクルマも来ていることですから、
言われるがままに空港に向かいました。30分弱で空港に着きましたが、当然のことながら空港ロビーには誰一人いません。
まぁ遅くなって不安を感じるよりは良いのですが、だーれもいないロビーは逆に不安でした。幸いなことにロビーのイスでウトウト
している私を見かねてか、コンチネンタルの女性職員が特別に搭乗手続きをしてくれたので、身軽になってお茶できたのは
助かりました。
 機上の人となり日本が近づくにつれて実生活に引き戻されるようです。機内食のコンビニおにぎり(こんな機内食初めて!)が
余計にその気持ちを助長します。その上、おにぎりの製造元がうちの会社の系列会社でしたから、旅の余韻に浸る間もありません
でした。
 それにしても子供の感性というのは面白いものがあります。2席ほど前に座っていた4〜5才の女の子が窓の外に広がる雲海を
見て、「お母さん、ここは天国?」ですって。とてもメルヘンなのですが、とってもブラックであったりもします。
 JAL3460便は、ほぼ定刻の7時50分に関西空港に着陸。予約しておいたMKタクシーのスカイゲートシャトルで無事帰宅する
ことができました。

■ また行ってみたいな…
 今回のパラオ旅行では無線を運用したのにも関わらず、持参した物と言えば「エレキー」「ヘッドホン」「7/10MH用ダイポール
アンテナ」くらいのもの。スーツケースの半分が空っぽというとてもお手軽なものでした。確かに事前準備も楽しみのうちではある
のですが、まぁたまにはこんな旅もあっていいでしょう。
 初めての海外一人旅に少々不安な部分もありましたが、無線機のスイッチを入れればすぐに日本語が飛び込んでくるし、
何よりもメールが使えたことはとても心強いことでした。ますます都会化の進むパラオ共和国ですが、また近いうちに訪れてみたい
と思える国です。今度はみなさんとご一緒できることを楽しみにしています。       (おわり)

<T88DX バンド別交信局数>
BAND:   7   : 10:  14  :  18  :   21   :  24  :     28     :   50 :TOTAL:
MODE:SSB: CW: CW:SSB:CW:SSB:CW: SSB: CW:SSB:CW:SSB:CW:FM:AM:SSB:CW:

QSOs: 10:183:213:146: 0:198:11:1734:164:116:31:241: 1:49: 1: 76: 7 3181:



詳細画像は T88写真 をご覧ください。

(この記事は2001年2月−3月京都クラブ会報No.365-366に掲載されたものです。)


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  Last Update May 12,2000