第76回観察会 2009年7月13日(木)12:05〜12:55
テーマ 『集まる虫たち』


☆ガイドレポート

今回のテーマは「集まる虫たち」ということで、 自然状態の昆虫の観察に加えて、 人工餌を用いて虫を集めること(ベイトトラップ)にも挑戦してみました。 設置したのは、 糖蜜(カルピス使用)または腐肉(ソーセージ使用)を紙コップに入れて地面に埋めておくトラップと、 熟した果物(バナナ使用)を容器かネットに入れて木から吊るしておくトラップです。 糖蜜には地上で他の虫を捕食するオサムシなどが集まり、 腐肉トラップでは動物の死骸に集まるシデムシや糞を食べるコガネムシ(糞虫)などを採集できます。 果物トラップはクワガタなどの樹液食昆虫を採るのによく用いられます。 ソーセージとバナナは日向に数日間放置して腐らせ、 観察会前日にこれらのトラップを園内に二つずつ設置しておきました。

いよいよ観察会当日、期待に胸を膨らませながら一つ目の糖蜜トラップを覗き込むと…。 いました!  オオヒラタシデムシが1匹入っています。 このシデムシは最も普通に見られる種類で、ミミズの死骸をよく食べます。 すぐ近くに仕掛けた腐肉トラップは、動物に餌を持っていかれたためか、 ベイトが完全になくなっていましたが、幸いオサムシなどの甲虫が数匹入っていました。 オサムシは後翅が退化しているために飛ぶことができず、 地面を歩き回ってガの幼虫などを襲って食べます。 そのため、餌を入れずに紙コップを埋めておくだけでも、 「落とし穴」にはまったオサムシを採集できるのです(当然、餌を入れた方が採集効率は上がります)。

二つ目の糖蜜トラップは小型のアリでびっしりと覆われ、 甲虫類は全くいませんでしたが、 もう一つの腐肉トラップの方にはセンチコガネやエンマコガネといった糞虫がたくさん入っていました。 一部の糞虫は死骸やキノコなども食べることから、このような種がトラップに誘引されたと考えられます。 さらに、腐肉で発生するウジを食うエンマムシという甲虫も来ていました。 バナナトラップには、カナブン数匹とケシキスイという小型の甲虫が多数集まっていました。 ケシキスイは、成虫のみならず幼虫も樹液や腐果の中で生活している昆虫です。

これらのトラップの観察と並行して、ナラ類の樹液に集まる昆虫の観察も行いました。 観察会当日に樹液が干上がってしまっているということが今まで何度もありましたが、 今年はなんとアベマキとコナラの2本の木から樹液が出ており、 ゴマダラチョウという大型の蝶やノコギリクワガタ、カナブンが集まっていました。 幸運なことに、コナラの樹液では、 大顎の立派なクワガタのオスがメスに覆いかぶさるような形で中央部に陣取り、 近づいてくるカナブンを追い払っている場面を目撃できました。

このように、樹液やトラップには多くの昆虫が集まるため、 昆虫を観察する上で非常に好都合な場所または方法と言えます。 昆虫は至る所に生息していますが、 その大半は小型で目立たない色・形をしていたり、隠れていたり、素早く動き回っていたりで、 なかなか容易に観察できないことが多いからです。 そして、このような一か所に集まる多様な生物を見ることは、 その地域の自然を理解することにもつながります。 今回の観察会で見られたのはごく一部の昆虫ですが、 それでも植物園の昆虫相の豊かさを実感して頂けたのではないでしょうか。

ガイド:吉本 治一郎さん(京都大学大学院地球環境学堂)

*【各トラップで採集された昆虫のリスト】
☆ 参加者の感想

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